この記事では、宮部みゆきのミステリ小説をランキング形式で紹介いたします。ランキングの指標には、ミステリ業界で毎年恒例となっている4大ミステリランキングを用います。具体的には以下の4つです。
・「週刊文春ミステリーベスト10」(1977年~)
・「このミステリーがすごい!」(1988年~)
・「本格ミステリ・ベスト10」(1997年~)
・「ミステリが読みたい!」(2008年~)
これら4つのランキングにおいて、当該作品が1位の場合には10点、2位の場合には9点、3位の場合には8点……10位の場合には1点を付与します。作品ごとに点数を集計し、合計点数の高いものを上位として順位をつけていきます。
宮部みゆきの全作品のうち、今回得点の対象となった作品は全部で18作です。1位から4位(4位が同率で2作)まではあらすじを含めて紹介し、6位以下は一覧表で確認できるようにまとめました。
上位の作品ほど複数のランキングで高く評価されたことになるため、きっと客観的な指標として役に立つと思います。これから宮部みゆきの小説を読みたいと考えている方にとって参考になれば幸いです。
第1位:『模倣犯』 22点
墨田区・大川公園で若い女性の右腕とハンドバッグが発見された。やがてバッグの持主は、三ヵ月前に失踪した古川鞠子と判明するが、「犯人」は「右腕は鞠子のものじゃない」という電話をテレビ局にかけたうえ、鞠子の祖父・有馬義男にも接触をはかった。ほどなく鞠子は白骨死体となって見つかった──。未曾有の連続誘拐殺人事件を重層的に描いた現代ミステリの金字塔、いよいよ開幕!
(新潮社HPより引用)
第1位は、2001年に刊行された長編『模倣犯』です。得点は22点。「週刊文春ミステリーベスト10」と「このミステリーがすごい!」で2冠を達成。狭義の本格ミステリでないにもかかわらず、「本格ミステリ・ベスト10」でも9位に入ったのは、純粋に小説としての評価の高さゆえでしょう。若い女性ばかりを狙う劇場型の連続誘拐殺人事件を扱った作品で、犯人や被害者とその遺族、刑事やマスコミ関係者など事件に関わる大勢の人間のドラマを描いた超大作です。
第1位:『楽園』 22点
未曾有の連続誘拐殺人事件(「模倣犯」事件)から9年。取材者として肉薄した前畑滋子は、未だ事件のダメージから立ち直れずにいた。そこに舞い込んだ、女性からの奇妙な依頼。12歳で亡くした息子、等(ひとし)が“超能力”を有していたのか、真実を知りたい、というのだ。かくして滋子の眼前に、16年前の少女殺人事件の光景が立ち現れた。
(文藝春秋BOOKSより引用)
同率で第1位になったのは、2008年刊行の長編『楽園』です。「ミステリが読みたい!」で1位に輝いたほか、「週刊文春ミステリーベスト10」で2位になるなどし、高得点を獲得しました。前述の『模倣犯』にも登場するフリーライター・前畑滋子を主人公とした作品で、『模倣犯』の9年後が舞台となっています。彼女のもとを訪れた女性からの奇妙な依頼に端を発し、16年前に起きた殺人事件の顛末が描かれます。被害者・加害者を含め、事件に関わる人々の複雑な苦悩や葛藤を丹念に紡いだ傑作です。
第3位:『火車』 19点
休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して──なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか? いったい彼女は何者なのか? 謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。
(新潮社HPより引用)
第3位は、1992年に刊行された長編『火車』です。得点は19点。「週刊文春ミステリーベスト10」で1位、「このミステリーがすごい!」で2位となっています。当時はこの2つのランキングのみでしたので、あと1歩で2冠を完全制覇というところでした。みずからの足取りを徹底的に消して行方をくらました女性の失踪事件を描いた作品で、第6回山本周五郎賞を受賞、第108回直木賞の候補にも上がってベストセラーになり、宮部みゆきの名を一気に世に知らしめました。20世紀の日本のミステリを代表する名作です。
第4位:『理由』 18点
事件はなぜ起こったか。殺されたのは「誰」で、いったい「誰」が殺人者であったのか──。東京荒川区の超高層マンションで凄惨な殺人事件が起きた。室内には中年男女と老女の惨殺体。そして、ベランダから転落した若い男。ところが、四人の死者は、そこに住んでいるはずの家族ではなかった……。ドキュメンタリー的手法で現代社会ならではの悲劇を浮き彫りにする、直木賞受賞作。
(新潮社HPより引用)
第4位は、1998年に刊行された長編『理由』です。得点は18点。「週刊文春ミステリーベスト10」で見事1位になったほか、「このミステリーがすごい!」でも3位に入り、高得点を獲得しました。高級マンションで発見された4つ遺体が、そこに住んでいるはずの家族のものではなかったという謎に、周辺の関係者たちの視点を通して迫るミステリ。関係者たちに取材をしているかのようなドキュメンタリー的な文体が特徴的で、より事件をリアルに感じさせる効果をあげています。第120回直木賞を受賞した著者の代表作のひとつです。
第4位:『ソロモンの偽証』 18点
クリスマス未明、一人の中学生が転落死した。柏木卓也、14歳。彼はなぜ死んだのか。殺人か。自殺か。謎の死への疑念が広がる中、“同級生の犯行”を告発する手紙が関係者に届く。さらに、過剰報道によって学校、保護者の混乱は極まり、犯人捜しが公然と始まった──。拡大する事件を前に、為す術なく屈していく大人達に対し、捜査一課の刑事を父に持つ藤野涼子は、級友の死の真相を知るため、ある決断を下す。それは「学校内裁判」という伝説の始まりだった。
(新潮社HPより引用)
同率で第4位となったのは、2012年刊行の長編『ソロモンの偽証』です。「週刊文春ミステリーベスト10」と「このミステリーがすごい!」でともに2位にランクインし、高得点となりました。中学校で発生した同級生の転落死の謎を、生徒のみによる「学校内裁判」で明らかにしようと奮闘する中学生たちを描いた作品で、やや変化球気味ではありますが「法廷ミステリ」の体裁をとっています。大人たちや社会に振り回されながら、中学生たちが何を求めて裁判を開き、何を得て何を失ったのか。単行本で全3冊、文庫では全6冊を費やして十全に描ききった超大作です。
全18作のランキング
1点以上を獲得した作品、全18作のランキングは以下のとおりです。各ミステリランキングの名称はスペースの都合上、略して書いています。各ランキングの順位で空欄になっているマスは10位圏外、「ー」はランキング開始前を表しています。なお、スマホの方は表を横にスクロールできます。
順位 | 点数 | タイトル | 文春 | このミス | 本格 | ミス読み |
---|---|---|---|---|---|---|
1位 | 22点 | 『模倣犯』 | 1位 | 1位 | 9位 | ー |
1位 | 22点 | 『楽園』 | 2位 | 8位 | 1位 | |
3位 | 19点 | 『火車』 | 1位 | 2位 | ー | ー |
4位 | 18点 | 『理由』 | 1位 | 3位 | ー | |
4位 | 18点 | 『ソロモンの偽証』 | 2位 | 2位 | ||
6位 | 15点 | 『名もなき毒』 | 1位 | 6位 | ||
6位 | 15点 | 『蒲生邸事件』 | 3位 | 4位 | ー | |
8位 | 10点 | 『龍は眠る』 | 8位 | 4位 | ー | ー |
9位 | 9点 | 『希望荘』 | 4位 | 9位 | ||
10位 | 7点 | 『小倉写真館』 | 7位 | 8位 | ||
11位 | 6点 | 『おそろし』 | 5位 | |||
12位 | 5点 | 『昨日がなければ明日もない』 | 8位 | 9位 | ||
13位 | 4点 | 『ペテロの葬列』 | 7位 | |||
14位 | 3点 | 『R.P.G』 | 8位 | |||
15位 | 2点 | 『ぼんくら』 | 9位 | |||
15位 | 2点 | 『この世の春』 | 9位 | |||
15位 | 2点 | 『魔術はささやく』 | 9位 | ー | ー | |
18位 | 1点 | 『レベル7』 | 10位 | ー | ー |
まとめ
以上、4大ミステリランキングの結果から独自集計した、宮部みゆきのミステリ小説ランキングでした。長いキャリアのなかでさまざまなタイプの小説を手がけてきた宮部みゆきですが、おもに現代ものの重厚な作品が上位を占める結果となりました。いきなり大長編に手を出すのに躊躇される方は、文庫で1冊に収まっているものから読んでみるのもいいと思います。当ランキングが作品選びの参考になれば幸いです。