この記事では、伊坂幸太郎のミステリ小説をランキング形式で紹介いたします。ランキングの指標には、ミステリ業界で毎年恒例となっている4大ミステリランキングを用います。具体的には以下の4つです。
・「週刊文春ミステリーベスト10」(1977年~)
・「このミステリーがすごい!」(1988年~)
・「本格ミステリ・ベスト10」(1997年~)
・「ミステリが読みたい!」(2008年~)
これら4つのランキングにおいて、当該作品が1位の場合には10点、2位の場合には9点、3位の場合には8点……10位の場合には1点を付与します。作品ごとに点数を集計し、合計点数の高いものを上位として順位をつけていきます。
伊坂幸太郎の全作品のうち、今回得点の対象となった作品は全部で13作です。1位から5位まではあらすじを含めて紹介し、6位以下は一覧表で確認できるようにまとめました。
上位の作品ほど複数のランキングで高く評価されたことになるため、きっと客観的な指標として役に立つと思います。これから伊坂幸太郎の小説を読みたいと考えている方にとって参考になれば幸いです。
1位 『ゴールデンスランバー』 29点
衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ? 何が起こっているんだ? 俺はやっていない──。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。
(新潮社HPより引用)
第1位は、2007年に刊行された長編『ゴールデンスランバー』です。得点は29点。「このミステリーがすごい!」と「ミステリが読みたい!」で1位、「週刊文春ミステリーベスト10」で2位を獲得。本格ミステリでないので「本格ミステリ・ベスト10」での得票が最初から期待できない以上、ほぼ満点に近い高得点といっていいでしょう。第21回山本周五郎賞と第5回本屋大賞をダブル受賞した著者の代表作で、首相暗殺の濡れ衣を着せられた男の逃亡劇を描く、スケールの大きなエンタテインメント小説です。
2位 『ホワイトラビット』 23点
兎田孝則は焦っていた。新妻が誘拐され、今にも殺されそうで、だから銃を持った。母子は怯えていた。眼前に銃を突き付けられ、自由を奪われ、さらに家族には秘密があった。連鎖は止まらない。ある男は夜空のオリオン座の神秘を語り、警察は特殊部隊SITを突入させる。軽やかに、鮮やかに。「白兎事件」は加速する。誰も知らない結末に向けて。驚きとスリルに満ちた、伊坂マジックの最先端!
(新潮社HPより引用)
第2位は、2017年刊行の長編『ホワイトラビット』です。得点は23点。「このミステリーがすごい!」で2位、「週刊文春ミステリーベスト10」で3位に入ったほか、「本格ミステリ・ベスト10」では全作品中で唯一トップ10入り(8位)を果たしています。複数のストーリーを錯綜させながら、仙台の住宅地で起きた人質立てこもり事件の顛末を描くミステリ。熟練の技で読者を騙しにかかる、伊坂幸太郎の語りのマジックが炸裂する秀作です。
3位 『アヒルと鴨のコインロッカー』 16点
引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は──たった1冊の広辞苑!? そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ! 注目の気鋭が放つ清冽な傑作。
(東京創元社HPより引用)
第3位は、2003年に刊行された長編『アヒルと鴨のコインロッカー』です。得点は16点。「このミステリーがすごい!」で2位、「週刊文春ミステリーベスト10」で4位を獲得しています。第25回吉川英治新人文学賞も受賞しており、初期の代表作のひとつといっていいでしょう。現在と過去(2年前)の物語が交互に描かれ、やがて交錯していくという形式で、伊坂幸太郎らしい技巧とトリックが堪能できる作品です。
3位 『死神の浮力』 16点
小学生の娘を殺された山野辺遼・美樹夫妻は、犯人への復讐心に燃えていた。そんな二人の前に現れた謎の男・千葉。彼は遼の「死」を判定するために訪れた死神だった。行動を共にする千葉と夫婦を待ち構えていたのは、想像を絶するほど凶悪な殺人犯の罠で──。飄々とした死神を引き連れて、夫婦の危険すぎる復讐計画が始まる! 著者の特別インタビューも巻末に収録。
(文藝春秋BOOKSより引用)
同率で第3位となったのは、2013年刊行の長編『死神の浮力』です。「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でともに5位に入るなどし、得点を伸ばしました。2005年に刊行された『死神の精度』に続く「死神」シリーズの第2弾。前作は連作短編集でしたが今作では趣向を変え、長編で死神「千葉」の活躍が描かれます。とある一家の娘を殺害したサイコパスと、人間の死を判定する死神との対決するエンタテインメント小説の傑作です。
5位 『重力ピエロ』 15点
兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは──。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。
(新潮社HPより引用)
第5位は、2003年に刊行された長編『重力ピエロ』です。得点は15点。「このミステリーがすごい!」で3位、「週刊文春ミステリーベスト10」では4位と上位に食いこんで高得点を獲得しました。「ミステリが読みたい!」は当時まだ創設前でしたが、もし創設されていたとしたらさらに得点を伸ばしていたことでしょう。連続放火事件に隠された真実をめぐる物語で、伊坂幸太郎の名を一気に世に知らしめた初期の代表作です。ミステリというより、家族の絆を描いた小説として楽しむのがいいと思います。
全13作のランキング
1点以上を獲得した作品、全13作のランキングは以下のとおりです。各ミステリランキングの名称はスペースの都合上、略して書いています。各ランキングの順位で空欄になっているマスは10位圏外、「ー」はランキング開始前を表しています。なお、スマホの方は表を横にスクロールできます。
順位 | 点数 | タイトル | 文春 | このミス | 本格 | ミス読み |
---|---|---|---|---|---|---|
1位 | 29点 | 『ゴールデンスランバー』 | 2位 | 1位 | 1位 | |
2位 | 23点 | 『ホワイトラビット』 | 3位 | 2位 | 8位 | 8位 |
3位 | 16点 | 『アヒルと鴨のコインロッカー』 | 4位 | 2位 | ー | |
3位 | 16点 | 『死神の浮力』 | 5位 | 5位 | 7位 | |
5位 | 15点 | 『重力ピエロ』 | 4位 | 3位 | ー | |
6位 | 13点 | 『マリアビートル』 | 3位 | 6位 | ||
7位 | 9点 | 『AX アックス』 | 7位 | 6位 | ||
8位 | 7点 | 『死神の精度』 | 4位 | ー | ||
9位 | 6点 | 『チルドレン』 | 5位 | ー | ||
10位 | 5点 | 『陽気なギャングが地球を回す』 | 6位 | ー | ||
10位 | 5点 | 『キャプテン・サンダーボルト』1 | 9位 | 8位 | ||
12位 | 3点 | 『魔王』 | 8位 | ー | ||
13位 | 2点 | 『夜の国のクーパー』 | 9位 |
- 阿部和重との共著。 ↩︎
まとめ
以上、4大ミステリランキングの結果から独自集計した、伊坂幸太郎のミステリ小説ランキングでした。本格ミステリ作家ではないので、「本格ミステリ・ベスト10」における得票があまり望めないなか、ほかの3つのランキングでさすがの結果を残していることがわかります。ぜひ伊坂幸太郎の作品を選び際の参考にしていただければと思います。