日本では2030年秋ごろ、大阪市の人工島・夢洲にカジノを含む統合型リゾート (IR) が開業されることが確実視されています。賛否両論の渦巻く日本のカジノ合法化ですが、解禁前にフィクションを通じてその世界を覗いてみるのもいいかもしれません。
そこでこの記事では、カジノを舞台にした日本のギャンブル小説を紹介いたします。カジノやギャンブルのスリル、興奮、教示をぜひ味わっていただきたいです。
なお、カジノを舞台にした海外のギャンブル小説については下記の記事で紹介していますので、よろしければあわせてお読みください。
『マルドゥック・スクランブル』冲方丁
なぜ私なの? 賭博師シェルの奸計により、少女娼婦バロットは爆炎にのまれた。瀕死の彼女を救ったのは、委任事件担当官にして万能兵器のネズミ、ウフコックだった。法的に禁止された科学技術の使用が許可されるスクランブル―09。この緊急法令で蘇ったバロットはシェルの犯罪を追うが、そこに敵の担当官ボイルドが立ち塞がる。それはかつてウフコックを濫用し、殺戮の限りを尽くした男だった。代表作の完全改稿版、始動!
(早川書房HPより引用)
『マルドゥック・スクランブル』は、冲方丁による超弩級のSF小説です。文庫で3冊の長編で、序盤は孤独な少女バロットが、様々な武器や道具に変身できるネズミ型万能兵器ウフコックと出会い、敵との戦いに挑んでいくアクション小説の色合いが強い作品です。銃撃戦の描写をはじめ、アクション小説としての出来もすばらしいのですが、これはまだ序の口。
中盤でとある理由からバロットがカジノに乗りこむと、そこから文庫丸々1冊分をカジノシーンに費やすギャンブル小説へと変貌します。このギャンブル対決こそ『マルドゥック・スクランブル』の真髄で、ポーカー、ルーレット、ブラックジャック、いずれも圧倒的な迫力に満ちた闘いが繰り広げられます。しかもSFならではの要素も加わった他に類を見ないギャンブルシーンに仕上がっているのですから、オリジナリティの点からも本当にすさまじい作品だと思います。
SFといっても小難しい理系の知識などはまったく必要ないので、おもしろいギャンブル小説が読みたい方には絶対におすすめしたい一作です。
『波の音が消えるまで』沢木耕太郎
サーフィンの夢を諦め、バリ島から香港を経由し、流木のようにマカオに流れ着いた伊津航平。そこで青年を待ち受けていたのはカジノの王「バカラ」だった。失った何かを手繰り寄せるようにバカラにのめり込んでいく航平。偶然の勝ちは必要ない、絶対の勝ちを手に入れるんだ──。同じくバカラの魔力に魅入られた老人・劉の言葉に導かれ、青年の運命は静かに、しかし激しく動き出すのだった。
(新潮社HPより引用)
『波の音が消えるまで』は、『深夜特急』で有名な沢木耕太郎による長編小説です。『深夜特急』でも著者がマカオのカジノで大小にハマるくだりがあり、手に汗握る緊張感と興奮で非常におもしろいシーンになっていました。そんな著者が、同じくマカオを舞台にカジノの王様・バカラを描くギャンブル小説がつまらないわけはありません。文庫にして3冊、必勝法を求めて闘いつづける主人公の姿を通じて、バカラの魔力をたっぷりと魅せてくれます。
また、主人公の職業であるサーファーやカメラマンについての描写も充実しており、印象的な脇役たちと交錯する人生を描く青春小説としての魅力もあって、非常に多面的な豊穣な物語に仕上がっています。バカラのルールも作中で丁寧に説明されるため、ギャンブルになじみのない読者にもおすすめできる大傑作です。
『黄色い夜』宮内悠介
東アフリカにあるE国内、荒野の果てに聳え立つ螺旋状の巨大な塔には無数のカジノが存在し、上層階では国家予算規模の金が動いているという。イタリア人のピアッサと共にその塔に潜入した日本人ギャンブラーのルイは、ニセ神父やテロリストらを相手取り、頭脳戦を繰り広げて賭けに勝ち進み、国王のいる最上階を目指す。彼の真の目的は国家転覆で──。スリリングなギャンブル小説、ここに誕生!
(集英社HPより引用)
『黄色い夜』は、SFやミステリから純文学まで幅広く手がける宮内悠介による中編小説です。舞台となるのは、エチオピアと隣接する架空の国E国。E国は賭博を主要産業としており、砂漠には巨大な螺旋状のカジノ・タワーがそびえています。ギャンブル小説が好きな読者からすると、このカジノ・タワーという舞台設定だけでワクワクするものを感じるのではないでしょうか。
主人公のルイはとある理由からE国乗っ取りを目論んでおり、国王のいる最上階を目指してタワーの各フロアでギャンブル対決を繰り広げていきます。まるでダンジョンRPGを攻略していくような楽しさがあり、ブラックジャックやルーレットなどおなじみの種目からオリジナルの一風変わったゲームまで、頭脳戦の興奮もばっちり味わわせてくれます。
また、そうしたゲーム的なおもしろさとは別に、登場人物たちのバックボーンを描きながら現代の病理を抉りだす社会性も備えているのが本作のすごいところ。文庫で200ページにも満たない短い作品ですが、引き締まった文体で濃密な世界を描いた傑作です。
『赤・黒 池袋ウエストゲートパーク外伝』石田衣良
しがない映像ディレクターの小峰に、時給1億円というカジノ売上強奪の声がかかる。襲撃は成功! だが目の前で金を横取りされ……。人生のどん底につき落とされた小峰に、容赦なく裏社会の影が襲いかかる。赤か黒、逆転を狙う男達の死闘が始まった──。緊迫感必至のクライム・サスペンス!
(文春文庫版裏表紙より引用)
『赤・黒 池袋ウエストゲートパーク外伝』は、サブタイトルにあるとおり石田衣良の人気シリーズ「池袋ウエストゲートパーク」シリーズのスピンオフ作品です。といっても独立した作品として書かれているので、シリーズを知らなくてもまったく問題はありません。脇役でシリーズ1作目『池袋ウエストゲートパーク』に登場するキャラクターが出てくるので、どうしても前提を100%理解したいという方はその1作だけ読んでおけば十分です。
本作は、主人公が違法カジノの売上金を巡り、裏社会のトラブルに巻きこまれるクライム・サスペンスです。カジノは登場するものの、ギャンブルそのものが描かれるシーンはなかなか出てこないのですが、ご安心ください。詳しい経緯はネタバレになるので書きませんが、『赤・黒』というタイトルにふさわしく、ルーレットによるギャンブル対決が終盤に待ち受けています。
サスペンスもののツボを抑えつつ、題材に沿ってギャンブルの死闘を十全に描いてくれるエンタテインメントの秀作です。
『カード師』中村文則
占いを信じていない占い師であり、違法カジノのディーラーでもある僕に舞い込んだ、ある組織からの指令。それは冷酷な資産家の顧問占い師となることだった──。国内外から新作を待望される著者が描き切った、理不尽を超えるための強き光。文庫版あとがきを加筆。
(朝日新聞出版HPより引用)
『カード師』は、海外での評価も高い中村文則による長編小説です。主人公は占い師兼違法カジノのディーラーで、タロットや賭博、マジックといったカードにまつわる事物が重要な要素として出てきます。ほかにもギリシャ神話やオカルトなど様々なモチーフを織り交ぜながら、混迷する現代社会への祈りを切実に描いたストーリーになっており、シンプルなギャンブル小説を求めて読むと少しヤキモキするかもしれません。
しかし、本作のハイライトのひとつは間違いなく、「クラブR」(地下の賭博場でも“最悪”といわれる場所)でのポーカーシーンです。本来はディーラーである主人公がトラブルからプレイヤーとして闘うことになり、なんと全財産を強制的に賭けさせられるという異常なギャンブルに巻きこまれる羽目になります。手に汗握るどころか、首を真綿で絞められるような展開に、読みながら息苦しくなること必至です。
ギャンブルが主眼の作品ではないかもしれませんが、おそらく国内の小説におけるポーカーの描写としては最高峰といっていいと思います。ポーカー好き、ギャンブル好きの方にはぜひ読んでいただきたいです。
まとめ
以上、カジノを舞台にした日本のギャンブル小説の紹介でした。いずれも手に汗握ること間違いなしの傑作ばかりですので、気になる作品があった方はぜひ手にとってみていただきたいです。