津山三十人殺しを題材にした小説3選!

ミステリ

津山三十人殺しは、1938年に岡山県の山間の集落で発生した大量殺人事件です。都井睦雄というひとりの青年が、わずか1時間半のあいだに老若男女30人を次々と殺害していった凄惨きわまりない事件で、明治以降の殺人事件としては、2019年に京都アニメーション放火殺人事件が起きるまで最多の犠牲者数でした。

歴史に残る大事件だけにさまざまなメディアで取りあげられてきましたが、この記事では津山三十人殺しを題材にした小説について紹介いたします。

『八つ墓村』横溝正史

戦国の頃、三千両の黄金を携えた八人の武者がこの村に落ちのびた。だが、欲に目の眩んだ村人たちは八人を惨殺。その後、不祥の怪異があい次ぎ、以来この村は“八つ墓村”と呼ばれるようになったという――。大正×年、落人襲撃の首謀者田治見庄左衛門の子孫、要蔵が突然発狂、三十二人の村人を虐殺し、行方不明となる。そして二十数年、謎の連続殺人事件が再びこの村を襲った……。現代ホラー小説の原点ともいうべき、シリーズ最高傑作!!
(KADOKAWAHPより引用)

八つ墓村』は、横溝正史による長編小説です。「金田一耕助」シリーズのひとつで、シリーズ中でも屈指の知名度を誇る一作。同時に、津山三十人殺しを題材にした小説のなかでも圧倒的に有名な作品といってよいでしょう。作中では、実際の事件とは細部が異なるものの、大正期に岡山の集落で32人の村人が殺害された事件が扱われています。

ストーリーとしては、その大量殺人事件を起こした犯人の実子とされる男が語り部となり、彼がとある理由で両親の故郷である「八つ墓村」に呼び戻されると、かつて凄惨な事件のあった村で再び連続殺人事件が起こるというもの。「金田一耕助」シリーズですから当然本格ミステリの要素はありますが、むしろ冒険活劇ものとして楽しい作品です。映像化作品のイメージも強いと思いますが、改めて原作を読むとそれらとはまた違った印象で楽しめることでしょう。

なお、横溝正史は戦中戦後に岡山で疎開生活を送っていたこともあり、本作以外にも岡山を舞台にした作品をいくつも残しています。

『龍臥亭事件』島田荘司

御手洗潔が日本を去って1年半。彼の友人で推理小説作家の石岡は、突然訪ねてきた二宮という女性の頼みで、岡山県まで悪霊祓いに出かけた。2人は霊の導くままに、寂しい駅に降り立ち、山中分け入り、龍臥亭という奇怪な旅館に辿り着く。そこで石岡は、世にもおぞましい、大量連続殺人事件に遭遇した。推理界の奇才が、渾身の筆致で描く本格ミステリー超大作!
(光文社HPより引用)

龍臥亭事件』は、島田荘司による長編小説です。著者の代表作である「御手洗潔」シリーズのひとつですが、本作では御手洗潔の出番はほとんどなく、普段はワトスン役を務めている石岡和己が奮闘するストーリーとなっています。

舞台となるのは岡山県の山間にある奇妙な旅館・龍臥亭。かつて津山三十人殺しが起き、それが暗い影を落としつづける地を偶然訪れることになった石岡が、新たな連続殺人事件に巻きこまれていきます。都井睦雄の名前を実名で出しているうえ、物語の後半では筑波昭のノンフィクション『津山三十人殺し』の内容を取りこんで、モデルと呼ぶに留まらないレベルでかなり大胆に実際の事件に踏みこんでいます。

もちろん作者ならではのアレンジもあり、それが本作で描かれる連続殺人事件の核心に関わってきます。本格ミステリ界の重鎮が歴史に残る大事件をどのように料理してみせたのか。ぜひその目で確かめていただきたいと思います。

『名探偵のはらわた』白井智之

悪夢が甦る──。日本犯罪史に残る最凶殺人鬼たちが、また殺戮を繰り返し始めたら。新たな悲劇を止められるのはそう、名探偵だけ! 善悪を超越した推理の力を武器に、「七人の鬼」の正体を暴き、世界から滅ぼすべし! 美しい奇想と端正な論理そして破格の感動。覚醒した鬼才が贈る、豪華絢爛な三重奏。このカタルシスは癖になる!
(新潮社HPより引用)

名探偵のはらわた』は、白井智之による連作短編集です。若者たちが召儺の儀式を行った結果、昭和の有名殺人鬼7人が現代に甦ってしまい、なんとか彼らを捕まえて地獄に送り返すために“殺人鬼狩り”がスタートする、といういわゆる「特殊設定ミステリ」です。

選ばれた昭和の7つの事件は、玉の井バラバラ殺人事件、阿部定事件、津山三十人殺し、帝銀事件、寿産院事件、三菱銀行人質事件、パラコート連続毒殺事件。それぞれ作中では微妙に事件名が変えられており、津山三十人殺しは「津ヶ山事件」となっています。7つの事件のなかでも津ヶ山事件はもっとも中心的に扱われており、小説の冒頭には、都井睦雄が犯行直後に書き残した文章の一部、「思う様にはゆかなかった」が引用されています。

実際の事件をキワモノめいた特殊設定に利用するのは、どこか不謹慎に感じられるのも否めませんが、ロジカルな多重解決を提示してみせる本格ミステリとしての強度は本物。とにかくあらゆる文章、描写が伏線として機能するストイックさには驚かされます。その分キャラクターたちのドラマの部分は犠牲になっている感もありますが、本格ミステリファンにとっては重大な瑕疵ではないでしょう。

本作が気に入った方は続編『名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件』もどうぞ。

まとめ

以上、津山三十人殺しを題材にした小説3作の紹介でした。いずれも本格ミステリ界の重要人物による作品ばかりです。同じ事件をモチーフにしながら、その扱いかたはそれぞれにまったく異なるので、読み比べてみるのもおもしろいと思います。