手塚治虫の選ぶ海外SF小説ベスト10

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手塚治虫エッセイ集 7』のなかに、「私が選んだ海外SFベスト10」と題して、手塚治虫が影響を受けた海外のSF小説10作を紹介している文章が収められています。

これは、1977年4月に発行された雑誌『別冊奇想天外 SF再入門大全集』に寄せられたもので、箇条書きのような短い文章で、各作品から影響されたポイントと、影響されて描いた作品について言及されています。

この記事ではその手塚治虫の選んだ海外SF小説10作と、それに影響されて描かれた手塚治虫の漫画10作について紹介いたします。

  1. 『山椒魚戦争』カレル・チャペック
    1. 『山椒魚戦争』に影響されて描かれた漫画:『ロック冒険記』
  2. 『火星年代記』レイ・ブラッドベリ
    1. 『火星年代記』に影響されて描かれた漫画:『鳥人大系』
  3. 『月世界最初の人間』H・G・ウェルズ
    1. 『月世界最初の人間』に影響されて描かれた漫画:『ロストワールド』
  4. 『火星のオデッセイ』スタンリイ・G・ワインボウム
    1. 『火星のオデッセイ』に影響されて描かれた漫画:『荒野の七ひき』(『ライオンブックス①』所収)
  5. 『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス
    1. 『アルジャーノンに花束を』に影響されて描かれた漫画:『ヤジとボク』(『タイガーブックス②』所収)
  6. 『発狂した宇宙』フレドリック・ブラウン
    1. 『発狂した宇宙』に影響された描かれた漫画:『火の鳥』
  7. 『盗まれた街』ジャック・フィニイ
    1. 『盗まれた街』に影響された描かれた漫画:『マグマ大使』
  8. 『モロー博士の島』H・G・ウェルズ
    1. 『モロー博士の島』に影響されて描かれた漫画:『地球大戦』(『冒険放送局』所収)
  9. 『トンネル』ベルンハルト・ケラーマン
    1. 『トンネル』に影響されて描かれた漫画:『地底国の怪人』
  10. 『輪廻の蛇』ロバート・A・ハインライン
    1. 『輪廻の蛇』に影響されて描かれた漫画:『キャプテンKen』
  11. まとめ

『山椒魚戦争』カレル・チャペック

赤道直下のタナ・マサ島「魔の入江」には二本足で子供のような手を持った真黒な怪物が沢山棲んでいた。無気味な姿に似ずおとなしい彼等は、やがて人間の指図のままに様々な労働を肩替りし始める……。奇抜な着想のこの諷刺小説で、作者は現代における人類の愚行を鋭く衝き、科学・技術の発達が人類に何を齎すか、と問いかける。
(岩波書店HPより引用)

山椒魚戦争』は、チェコの作家カレル・チャペックによる長編小説です。チャペックの代表作のひとつで、知性を持った山椒魚が人類に反旗を翻すディストピアSF。作中に登場する「山椒魚総統」は明らかにヒトラーを意識しており、ナチス・ドイツがヨーロッパで存在感を増していくなかで書かれた、勇気ある風刺小説でもあります。

『山椒魚戦争』に影響されて描かれた漫画:『ロック冒険記』

鳥人と人間の交流と戦いを描いたSF大活劇謎の惑星「ディモン」が地球に大接近した。発見者のディモン博士は、亡くなる直前、息子のロックにこの星の所有権を託すのだが……。SF大冒険活劇。
(講談社HPより引用)

『火星年代記』レイ・ブラッドベリ

火星への最初の探検隊は一人も帰還しなかった。火星人が探検隊を、彼らなりのやりかたでもてなしたからだ。つづく二度の探検隊も同じ運命をたどる。それでも人類は怒涛のように火星へと押し寄せた。やがて火星には地球人の町がつぎつぎに建設され、いっぽう火星人は……幻想の魔術師が、火星を舞台にオムニバス短篇で抒情豊かに謳いあげたSF史上に燦然と輝く永遠の記念碑。著者の序文と2短篇を新たに加えた〔新版〕登場!
(早川書房HPより引用)

火星年代記』は、アメリカの作家レイ・ブラッドベリによる連作短編集です。26の短編からなるオムニバス形式の物語で、人類の火星移住をテーマにしたSFです。数多ある火星SFのなかでも代表的な一作といってよいでしょう。

『火星年代記』に影響されて描かれた漫画:『鳥人大系』

高度な知能を持った鳥達が地球の支配者に!地球上の進化の歪みを正すべく生まれた鳥人社会も、決して理想の世界ではなく、やがて人間と同様の歴史を歩み始める!退廃していく鳥人社会の行く末は……!?
(講談社HPより引用)

『月世界最初の人間』H・G・ウェルズ

引力の作用を利用したガラス球の宇宙船で人類初めて月へ行ったケイバーと「ぼく」。しかし、ケイバーはおそろしい月人につかまってしまった。二人の地球人の冒険を書いた空想科学小説。
(「BOOK」データベースより引用)

月世界最初の人間』は、イギリスの作家H・G・ウェルズによる長編小説です。「SFの父」と称されるウェルズが人類初の月世界旅行について書いたSFの古典ですが、現在紙の本の入手は非常に困難。かろうじて入手できる可能性がありそうなのは岩崎書店から出ている児童書ですが、子ども向けの抄訳版であることに注意が必要です。電子書籍版であれば楽天Koboで読めるものがありますので、そちらのリンクも貼っておきます。

『月世界最初の人間』に影響されて描かれた漫画:『ロストワールド』

恐龍がのし歩く“ロストワールド”を発見!太古の地球から分かれたママンゴ星が500万年ぶりに地球に大接近。探検隊として到着したヒゲオヤジがそこで見たものは!? 近未来SF『メトロポリス』併録。
(手塚治虫公式HPより引用)

『火星のオデッセイ』スタンリイ・G・ワインボウム

「火星のオデッセイ」は1970年、アメリカSFファンタジー作家協会が実施したSF短編のオール・タイム・ベストの選出で、アシモフの「夜来たる」に次いで第2位に入った。作者ワインボウムの描いた異星の生物は、他の想像を超えた存在で、地球外の環境の描写とともに、まったくの独創だった。人間とのコミュニケーションを成立させたかに見える「トゥイール」は、その後の異星人の先駆となった。ワインボウムは32歳で一躍SF界の寵児となったが、続編を残しただけで翌年夭逝した。
(Amazon商品紹介ページより引用)

火星のオデッセイ』は、アメリカの作家スタンリイ・G・ワインボウムによる短編小説です。それまでのSFではあまり描かれてこなかった、人類とは異なる論理を持つ異星人をリアルに描いてみせた画期的な作品です。紙の本では入手が非常に難しいため、Amazonで販売されているKindle版で読むのをおすすめいたします。事情により他の作品と同じようなリンクが作成できないため、こちらからどうぞ⇒『火星のオデッセイ

『火星のオデッセイ』に影響されて描かれた漫画:『荒野の七ひき』(『ライオンブックス①』所収)

汎地球防衛警察同盟の決死隊員、潮と味島は、二百人の宇宙人を倒した後、車両の爆発のため、砂漠を徒歩で帰還する羽目となる。五人の宇宙人を捕虜に連れて。その長く苦しい行程で、宇宙人たちは意外な能力と「心」を示す。
(手塚治虫公式サイトより引用)

『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス

32歳で幼児の知能しかないパン屋の店員チャーリイは、ある日、ネズミのアルジャーノンと同じ画期的な脳外科手術を受ければ頭がよくなると告げられる。手術を受けたチャーリイは、超天才に変貌していくが……人生のさまざまな問題と喜怒哀楽を繊細に描き、全世界が涙した現代の聖書。
(早川書房HPより引用)

アルジャーノンに花束を』は、アメリカの作家ダニエル・キイスによる長編小説です。もともとは中編として発表され、ヒューゴー賞短編小説部門を受賞。その後発表された長編ではネビュラ賞を受賞と、SF界で高く評価されています。日本でも累計で400万部近く売れている大ベストセラー作品です。

『アルジャーノンに花束を』に影響されて描かれた漫画:『ヤジとボク』(『タイガーブックス②』所収)

知的障害者の少年ヤジローの兄タロは、動物の知能を向上させる研究をしていた。彼の実験用ネズミをヤジローは逃してヤジと名付けた。自由を得たヤジの知能は凄まじく発達する。化学の本を読んで爆薬を作るほどに…。
(手塚治虫公式HPより引用)

『発狂した宇宙』フレドリック・ブラウン

とにかくこれは多元宇宙SFの決定版である。多元宇宙SFのあらゆる面白さとテクニックを全部ぶちこんだ、いわば集大成であり、さらにこれによってブラウンは、多元宇宙SFを確立させたといえる。そのかわりSF作家にとってはこれ以後、多元宇宙の面白いネタを見つけるのが困難になった。処女長編とは思えぬ、完成された作品である。ブラウンの長編の最高傑作は?という問いに対して、『発狂した宇宙』をあげる人と、『火星人ゴーホーム』をあげる人がいて、好みが二種類にはっきりわかれてしまう。ぼくは『発狂した宇宙』をとるが、星新一氏などは『火星人ゴーホーム』組である。シュール・リアリスティックなドタバタが好きな人と、ブラック・ユーモアの方が好きな人とにわかれるのではないか、と、ぼくは思っている。…以上、筒井康隆氏の紹介文だ。
(Amazon商品紹介ページより引用)

発狂した宇宙』は、アメリカの作家フレドリック・ブラウンによる長編小説です。短編やショートショートで有名な著者が残した数少ない長編のうちのひとつで、多元宇宙SF(パラレルワールドもの)の古典的な名作です。

『発狂した宇宙』に影響された描かれた漫画:『火の鳥』

『盗まれた街』ジャック・フィニイ

アメリカ西海岸沿いの小都市サンタ・マイラで、奇妙な現象が蔓延しつつあった。夫が妻を妻でないといい、子が親を、友人が友人を偽物だと思いはじめる。はじめ心理学者は、時おり発生するマス・ヒステリー現象と考えていた。だがある日、開業医のマイルズは友人の家で奇怪な物体を見せられた。それは人間そっくりに変貌しつつある謎の生命体-宇宙からの侵略者の姿だったのだ!奇才フィニィが放つ侵略テーマSFの名作。
(「BOOK」データベースより引用)

盗まれた街』は、アメリカの作家ジャック・フィニイによる長編小説です。短編でも多くも名作を残している著者の、長編における代表作のひとつで、これまでに4度も映画化されています。いわゆる侵略テーマSFの古典的名作です。

『盗まれた街』に影響された描かれた漫画:『マグマ大使』

マグマよ、ゴアの魔の手から地球を救え!!地球征服を企む「宇宙の帝王」ゴアとの戦いのため、地球の創造主アースによって創られた「ロケット人間」マグマ大使。悪魔VS正義、果たして戦いの行方は!?
(講談社HPより引用)

『モロー博士の島』H・G・ウェルズ

動物を人間に改造しようとするモロー博士の悲劇を描いた表題作をはじめ、怪奇・奇想の傑作一○篇を収録。肥満を解消したい大食漢の物語「バイクラフトの真実」、未来の新聞が読めるようになった「ブロンローの新聞」、薬品による精神と肉体の交換を描く「故エルヴィシャム氏の物語」など、怖くて面白いお話を満載。うち本邦初訳二篇。
(岩波書店HPより引用)

モロー博士の島』は、イギリスの作家H・G・ウェルズによる中編小説です。動物実験をおこなうマッドサイエンティストの悲劇を描いた作品で、SFと怪奇小説のおもしろさを味わえる一作。ウェルズは『月世界最初の人間』に続いて、2作目の選出となりました。

『モロー博士の島』に影響されて描かれた漫画:『地球大戦』(『冒険放送局』所収)

パイロットの息子・荒波ドン太郎は、列車での旅の途中、他の乗客や両親ともどもウラメシア国の軍部にとらわれてしまいました。スパイ組織「人間細菌団」の一味を探すために、列車の乗客をみな捕らえ、惨殺しようとするウラメシア軍。ドン太郎は間一髪、軍の拘束から逃れて母と一緒に逃亡することに。逃亡中に出会った人間細菌団の一員の男から、ウラメシアで起こっている恐るべき陰謀を明かされます。国の実権を握ろうとたくらむゴルボ大佐は、王子の暗殺を計画しており、人間細菌団はそれを阻止しようと奮闘している、というのです。真実を知ったドン太郎は人間細菌団の一員になり、陰謀を阻止するために戦うことを決意します。
(手塚治虫公式HPより引用)

『トンネル』ベルンハルト・ケラーマン

舞台はニューヨーク。青年技師マック・アランには、長年温める壮大な計画があった。アメリカとヨーロッパを24時間で結ぶ「大西洋横断海底トンネル超特急プロジェクト」──。老獪な大銀行家ロイドの協力を仰ぎ、投資家からの資金集めに成功する。完成期限は15年……。未曽有の大工事に18万人の労働者を動員、人類史上かつてないプロジェクトがはじまった。爆発事故の大惨事、株の取り付け騒ぎ、労働者の暴動……。技師マック・アランの波瀾万丈の四半世紀を描くドイツSFの嚆矢!
(国書刊行会HPより引用)

トンネル』は、ドイツの作家ベルンハルト・ケラーマンによる長編小説です。アメリカとヨーロッパを結ぶ巨大トンネル工事をめぐる壮大な物語です。長らく入手が困難な作品でしたが、2020年に国書刊行会から復刊。同書には手塚治虫のエッセイも収録されています。

『トンネル』に影響されて描かれた漫画:『地底国の怪人』

地球征服を企む地底国人との戦い! 安全で高速な「地球貫通列車」を発明した少年ジョン。助手の耳男とともに地球の中心へ向かった彼は、地球征服を企む地底国人たちと出会う! 他に二編を併録。
(講談社HPより引用)

『輪廻の蛇』ロバート・A・ハインライン

輪廻の蛇』は、アメリカの作家ロバート・A・ハインラインによる短編小説です。日本ではとくにタイムトラベルものの長編『夏への扉』が有名なハインラインですが、『輪廻の蛇』もタイムパラドクスを扱った時間SFとなっています。

『輪廻の蛇』に影響されて描かれた漫画:『キャプテンKen』

火星の開拓時代を舞台にした異色SF活劇!21世紀のはじめ、火星は地球の植民地になっていた。迫害される火星人を救うため、突如キャプテン・ケンと名乗る少年が現れた。はたして、この少年の正体とは?
(講談社HPより引用)

まとめ

以上、手塚治虫の選ぶ海外SF小説10作と、それらに影響されて描かれた漫画10作の紹介でした。小説と漫画、どちらも読んで比較するのも楽しいと思いますので、気になった作品があった方はぜひ手にとってみていただきたいです。