この記事では、米澤穂信のミステリ小説をランキング形式で紹介いたします。ランキングの指標には、ミステリ業界で毎年恒例となっている4大ミステリランキングを用います。具体的には以下の4つです。
・「週刊文春ミステリーベスト10」(1977年開始)
・「このミステリーがすごい!」(1988年開始)
・「本格ミステリ・ベスト10」(1997年開始)
・「ミステリが読みたい!」(2008年開始)
これら4つのランキングにおいて、当該作品が1位の場合には10点、2位の場合には9点、3位の場合には8点……10位の場合には1点を付与します。作品ごとに点数を集計し、合計点数の高いものを上位として順位をつけていきます。
米澤穂信の全作品のうち、今回得点の対象となった作品は全部で18作です。1位から10位まではあらすじを含めて紹介し、11位以下は一覧表で確認できるようにまとめました。
上位の作品ほど複数のランキングで高く評価されたことになるため、きっと客観的な指標として役に立つと思います。これから米澤穂信の小説を読みたいと考えている方にとって参考になれば幸いです。
1位 『黒牢城』 40点
本能寺の変より四年前。織田信長に叛旗を翻し有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起こる難事件に翻弄されていた。このままでは城が落ちる。兵や民草の心に巣食う疑念を晴らすため、村重は土牢に捕らえた知将・黒田官兵衛に謎を解くよう求めるが──。事件の裏には何が潜むのか。乱世を生きる果てに救いはあるか。城という巨大な密室で起きた四つの事件に対峙する、村重と官兵衛、二人の探偵の壮絶な推理戦が歴史を動かす。
(KADOKAWAHPより引用)
第1位は、2021年に刊行された連作短編集『黒牢城』です。得点は40点。つまり4大ミステリランキングすべてにおいて1位を獲得したということです。これは史上初の快挙でした(その後、青崎有吾が『地雷グリコ』で史上2度目の4冠制覇を達成)。文学賞においても第166回直木三十五賞、第22回本格ミステリ大賞、第12回山田風太郎賞を受賞するなど輝かしい成績を残しています。時代小説と本格ミステリを高次元で融合させてみせた傑作です。
2位 『満願』 39点
「もういいんです」人を殺めた女は控訴を取り下げ、静かに刑に服したが……。鮮やかな幕切れに真の動機が浮上する表題作をはじめ、恋人との復縁を望む主人公が訪れる「死人宿」、美しき中学生姉妹による官能と戦慄の「柘榴(ざくろ)」、ビジネスマンが最悪の状況に直面する息詰まる傑作「万灯」他、「夜警」「関守」の全六篇を収録。史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の金字塔。山本周五郎賞受賞。
(新潮社HPより引用)
第2位は、2014年刊行の短編集『満願』です。得点は39点。「本格ミステリ・ベスト10」で惜しくも2位となり4冠制覇はならなかったものの、3つのランキングを制しました。また、第27回山本周五郎賞受賞作でもあります。2018年には、収録作のうち「夜警」「万灯」「満願」の3編がNHKでテレビドラマ化されました。抑制された筆致で人間の心理と謎を描きだす珠玉の短編集です。
2位 『可燃物』 39点
太田市の住宅街で連続放火事件が発生した。県警葛班が捜査に当てられるが、容疑者を絞り込めないうちに、犯行がぴたりと止まってしまう。犯行の動機は何か?なぜ放火は止まったのか?犯人の姿が像を結ばず捜査は行き詰まるかに見えたが……(「可燃物」)。連続放火事件の“見えざる共通項”を探り出す表題作を始め、葛警部の鮮やかな推理が光る5編。
(「BOOK」データベースより引用)
同率で第2位となったのは、2023年に刊行された連作短編集『可燃物』です。『満願』と同じく「本格ミステリ・ベスト10」のみ2位、そのほか3つのランキングで1位を獲得。『黒牢城』で4冠制覇を成し遂げたあと、わずか2年であわや2度目の4冠というところでした。4大ミステリランキングで米澤穂信がいかに無双しているか、改めて知ると恐ろしいほどです。群馬県警捜査一課の葛警部を主人公とした連作で、米澤穂信にとって初の警察小説であると同時に、切れ味鋭い本格ミステリでもあります。
4位 『折れた竜骨』 38点
ロンドンから出帆し、北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナは、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた…。いま最も注目を集める俊英が渾身の力で放ち絶賛を浴びた、魔術と剣と謎解きの巨編!第64回日本推理作家協会賞受賞作。
(「BOOK」データベースより引用)
第4位は、2010年刊行の長編『折れた竜骨』です。得点は38点。「本格ミステリ・ベスト10」と「ミステリが読みたい!」の2冠を制覇し、ほか2つのランキングではどちらも2位と、これもまたすさまじい評価を獲得しています。第64回日本推理作家協会賞を受賞し、文学賞においてはデビュー以来初の戴冠。作家としての地位をぐっと押しあげる作品となりました。中世ヨーロッパを舞台に魔法が登場するファンタジーでありながら、れっきとした本格ミステリでもある異色の傑作です。
4位 『王とサーカス』 38点
海外旅行特集の仕事を受け、太刀洗万智はネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王殺害事件が勃発する。太刀洗は早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり…2001年に実際に起きた王宮事件を取り込んで描いた壮大なフィクション、米澤ミステリの記念碑的傑作。
(「BOOK」データベースより引用)
同率で第4位となったのは、2015年に刊行された長編『王とサーカス』です。「本格ミステリ・ベスト10」で3位、ほか3つのランキングで1位と、『満願』に続いて2年連続で3冠以上達成となりました。まるで3冠が珍しくないことのように思えてきますが、米澤穂信が異常なだけで、普通はそうそう達成できるものではありません。本書の舞台はネパール。2001年に実際に起きたネパール王族殺害事件を背景にした意欲作で、異国情緒もたっぷり味わえるミステリです。
6位 『真実の10メートル手前』 31点
高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの大刀洗と合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める。大刀洗はなにを考えているのか?滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執──己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、大刀洗万智の活動記録。「綱渡りの成功例」など粒揃いの六編、第155回直木賞候補作。
(「BOOK」データベースより引用)
第6位は、2015年に刊行された連作短編集『真実の10メートル手前』です。得点は31点。「ミステリが読みたい!」では1位を獲得しており、2015年版から2017年版にかけて『満願』、『王とサーカス』、そして本書で3連覇達成となりました。『王とサーカス』と同じくジャーナリスト・太刀洗万智を主人公とする「ベルーフ」シリーズのひとつで、各事件を通して社会の闇や人間の機微を描きだし、同時に事件報道のあり方も問う作品集となっています。
7位 『冬期限定ボンボンショコラ事件』 29点
小市民を志す小鳩君はある日轢き逃げに遭い、病院に搬送された。目を覚ました彼は、朦朧としながら自分が右足の骨を折っていることを聞かされる。翌日、手術後に警察の聴取を受け、昏々と眠る小鳩君の枕元には、同じく小市民を志す小佐内さんからの「犯人をゆるさない」というメッセージが残されていた。小佐内さんは、どうやら犯人捜しをしているらしい……。冬の巻ついに刊行。
(東京創元社HPより引用)
第7位は、2024年刊行の長編『冬期限定ボンボンショコラ事件』です。得点は29点。2004年から書き継がれてきた「小市民」シリーズの完結編で、シリーズ中もっとも高い評価を獲得しています。シリーズは番外編を除くと、『春期限定いちごタルト事件』、『夏期限定トロピカルパフェ事件』、『秋期限定栗きんとん事件』、そして本書という順になっており、できればこの順番に沿って読んでいくのがよいでしょう。2025年にはシリーズ全体が評価され、第10回吉川英治文庫賞を受賞しています。
8位 『追想五断章』 28点
大学を休学し、伯父の古書店に居候する菅生芳光は、ある女性から、死んだ父親が書いた五つの「結末のない物語」を探して欲しい、という依頼を受ける。調査を進めるうちに、故人が20年以上前の未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者だったことがわかりー。五つの物語に秘められた真実とは?青春去りし後の人間の光と陰を描き出す、米澤穂信の新境地。精緻きわまる大人の本格ミステリ。
(「BOOK」データベースより引用)
第8位は、2009年に刊行された長編『追想五断章』です。得点は28点。米澤穂信にとっては初めて4大ミステリランキングすべてでトップ10入りを果たし、同時にすべてトップ5入りを達成した作品となっています。米澤穂信のミステリランキング無双はここから始まったといってよいでしょう。長編のなかに5つのリドル・ストーリーが挿入される凝った構成で、それまで中高生を主人公とする作品が多かったなか大学生を主人公とするなど、作家として作風を広げていこうとする意思が感じられる一作です。
9位 『インシテミル』 12点
「ある人文科学的実験の被験者」になるだけで時給十一万二千円がもらえるという破格の仕事に応募した十二人の男女。とある施設に閉じ込められた彼らは、実験の内容を知り驚愕する。それはより多くの報酬を巡って参加者同士が殺し合う犯人当てゲームだったー。いま注目の俊英が放つ新感覚ミステリー登場。
(「BOOK」データベースより引用)
第9位は、2007年刊行の長編『インシテミル』です。得点は12点。「週刊文春ミステリーベスト10」にはこの作品で初めてトップ10入りとなりました。高額報酬をうたう実験のために集まった12人の男女が、より多くの報酬のために殺し合いをする羽目になるデスゲームもののミステリです。過去の名作ミステリへのオマージュが散りばめられた作品で、ジャンルへの愛着がうかがえる一作となっています。2010年には映画化もされています。
10位 『夏期限定トロピカルパフェ事件』 8点
小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を!そんな高校2年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは〈小佐内スイーツセレクション・夏〉!? 待望のシリーズ第2弾。
(東京創元社HPより引用)
第10位は、2006年に刊行された連作短編集『夏期限定トロピカルパフェ事件』です。得点は8点。「本格ミステリ・ベスト10」には本作で初めてトップ10入りを果たしました。前述の「小市民」シリーズの2作目にあたり、2024年の夏に1作目の『春期限定いちごタルト事件』とあわせてテレビアニメ化されています。
全18作の一覧表
1点以上を獲得した作品、全18作の一覧表は以下のとおりです。各ミステリランキングの名称はスペースの都合上、略して書いています。各ランキングの順位で空欄になっているマスは10位圏外、「ー」はランキング開始前を表しています。なお、スマホの方は表を横にスクロールできます。
順位 | 点数 | タイトル | 文春 | このミス | 本格 | ミス読み |
---|---|---|---|---|---|---|
1位 | 40点 | 『黒牢城』 | 1位 | 1位 | 1位 | 1位 |
2位 | 39点 | 『満願』 | 1位 | 1位 | 2位 | 1位 |
2位 | 39点 | 『可燃物』 | 1位 | 1位 | 2位 | 2位 |
4位 | 38点 | 『折れた竜骨』 | 2位 | 2位 | 1位 | 1位 |
4位 | 38点 | 『王とサーカス』 | 1位 | 1位 | 3位 | 1位 |
6位 | 31点 | 『真実の10メートル手前』 | 3位 | 2位 | 7位 | 1位 |
7位 | 29点 | 『冬期限定ボンボンショコラ事件』 | 2位 | 2位 | 9位 | 2位 |
8位 | 28点 | 『追想五断章』 | 5位 | 4位 | 4位 | 3位 |
9位 | 12点 | 『インシテミル』 | 7位 | 10位 | 4位 | |
10位 | 8点 | 『夏期限定トロピカルパフェ事件』 | 10位 | 4位 | ー | |
11位 | 7点 | 『Iの悲劇』 | 4位 | |||
12位 | 5点 | 『リカーシブル』 | 7位 | 10位 | ||
13位 | 4点 | 『儚い羊たちの祝宴』 | 7位 | |||
14位 | 3点 | 『犬はどこだ』 | 8位 | ー | ||
14位 | 3点 | 『いまさら翼といわれても』 | 8位 | |||
16位 | 2点 | 『本と鍵の季節』 | 9位 | |||
17位 | 1点 | 『秋期限定栗きんとん事件』 | 10位 | |||
17位 | 1点 | 『巴里マカロンの謎』 | 10位 |
まとめ
以上、4大ミステリランキングの結果から独自集計した、米澤穂信のミステリ小説ランキングでした。これほどミステリランキングですさまじい成績を残している作家はほかにいないので、ぜひその評価の高さを実際に小説を読んで確かめてみていただければと思います。