2010年頃からいわゆる「ライト文芸」のレーベルが増えはじめ、ライトノベルと一般文芸の中間のような小説や、ライトノベル的な要素を含んだ一般文芸作品は珍しいものではなくなりました。
この現象の前段階として、2000年代にライトノベル出身の作家が一般文芸へ〈越境〉していく流れがありました。有名どころでは、電撃小説大賞出身の有川ひろ(※デビュー時は有川浩)や、ジャンプ小説大賞出身の乙一などが挙げられるでしょう。そうした〈越境組〉がライトノベル作家には縁のなかった文学賞を受賞するケースもしばしば見られるようになり、なかには日本でもっとも有名な文学賞のひとつである直木賞を受賞する作家も現れました。
そこでこの記事では、ライトノベル出身で直木賞受賞を果たした作家についてまとめてみました。なお、「ライトノベル」という言葉が生まれる以前にコバルト文庫など少女小説のレーベルからデビューし、直木賞を受賞した作家については、下記の記事にまとめてあります。よろしければあわせてお読みください。

村山由佳
村山由佳はキャリアの最初期に絵本を手がけたこともありますが、小説家としての本格的なデビュー作は1993年発表の『もう一度デジャ・ヴ』です。1991年に第1回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞において佳作を受賞した作品で、JUMP j BOOKSというライトノベルレーベルから発売されました。伝奇ファンタジーの要素を含んだ恋愛小説で、彼女のちのキャリアを考えると異色の作品といえるかもしれません。
1994年からは同じくJUMP j BOOKSで「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズが始まり、王道的な青春恋愛小説として人気を博していきます。本編は2020年に全19巻で完結、その後2022年に番外編が1冊発売されて有終の美を飾りました。
村山由佳は1993年に第6回すばる小説新人賞を受賞し、翌年受賞作である『天使の卵-エンジェルス・エッグ』を発表しているので、キャリアの初期から一般文芸の世界にも身を置いていたことになります。そのため彼女にライトノベル作家というイメージはないという読者も多いかもしれませんが、JUMP j BOOKSでの活躍を考えれば、間違いなくライトノベル出身の作家といっていいと思います。
そんな彼女の直木賞受賞作は、2003年発表の『星々の舟』です(第129回/2003年上半期)。複雑な関係性の家族を、それぞれの視点で綴った連作短編集となっています。主人公たちの抱える傷や秘密は重く、ライトノベル的な要素はまったくありませんが、こうしたシリアスでヘビーな作風もまた村山由佳の持ち味のひとつといえるでしょう。
桜庭一樹
別名義でゲームのノベライズなどを手がけていた桜庭一樹は、1999年、第1回ファミ通エンタテインメント大賞小説部門で佳作入選し、受賞作を改題した『AD2015隔離都市 ロンリネス・ガーディアン』で本格的に作家デビューを果たします。その後ファミ通文庫や富士見ミステリー文庫などでいくつか作品を発表するものの、ヒットに恵まれない時期がしばらく続きました。
2003年末、ヨーロッパの架空の国を舞台にしたミステリ「GOSICK -ゴシック-」シリーズが始まるとこれがようやくヒットし、2004年には暗黒青春ミステリといわれた『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』でライトノベル界に衝撃を与えます。
『砂糖菓子~』で、既存のライトノベルの枠に収まらない作家だという評価を得た桜庭一樹は、2005年『少女には向かない職業』を東京創元社から刊行し、一般文芸へ進出します。『砂糖菓子~』と『少女には~』は、田舎で暮らす2人の少女を主人公としたシリアスな青春ミステリという点で非常に似通っており、作風を変えずともライトノベルから一般文芸へ越境できるのだと示した一例といえるかもしれません。
その後、一般文芸の世界で着実にキャリアを積んだ彼女は2007年、『私の男』で直木賞受賞を果たします(第138回/2007年下半期)。父娘のインモラルな関係を描いた作品で、『砂糖菓子~』以降の桜庭一樹が繰り返し描いてきた孤独な少女の物語の到達点です。ライトノベル時代(の後期)から積み上げてきたスタイルの結実を示す受賞だったといってよいと思います。
米澤穂信
米澤穂信は2001年、『氷菓』で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞してデビューします。これは「古典部」シリーズの第1作目にあたり、2作目の『愚者のエンドロール』までは角川スニーカー文庫内のレーベル「スニーカー・ミステリ倶楽部」から刊行されました。
〈古典部〉シリーズは3作目も執筆されていましたが、「スニーカー・ミステリ倶楽部」が休止となったこともあり、完成原稿が宙に浮いた状態になってしまいます。そこで出版社を変え、改稿を加えて独立した作品として発売されることになりました。それが2004年、東京創元社から刊行された『さよなら妖精』です。
『さよなら妖精』以降、米澤穂信はライトノベルレーベルでの執筆から離れることになりますが、「古典部」シリーズは2005年から単行本(のちに文庫化)で刊行が再開され、2025年現在もシリーズは完結していません。また、2004年の『春期限定いちごタルト事件』に始まり、2024年に完結した「小市民」シリーズもライトノベル的な要素の非常に強い作品でしたので、米澤穂信は現役のライトノベル作家だといっても間違いではないかもしれません。
そんな米澤穂信が直木賞を受賞するのは2021年、『黒牢城』においてです(第166回/2021年下半期)。黒田官兵衛を主人公に据え、歴史小説と本格ミステリの融合に挑んだ連作短編集で、直木賞のみならず山田風太郎賞、本格ミステリ大賞も射止め、さらに4つの主要なミステリランキングを完全制覇した傑作です。
まとめ
以上、ライトノベル出身で直木賞を受賞した作家3名の紹介でした。直木賞受賞作家を輩出しているからライトノベルには価値がある、というわけではないですが、ライトノベル界の功績としてわかりやすい指標のひとつといえるのではないかと思います。気になった作家、作品があればぜひ読んでみてください。